先日私の恩師K先生が先生を辞められるという連絡があった。
学校へ入学し、版画を専攻していた私にとっての師である。
そんな一報を受けて学生時代のことを思い出していた。
学生時代、大阪の阿倍野区にある美章園というところへ下宿した私は、風呂なしのアパートで貧乏学生をしていた。
毎日の入浴は、アパートの近くにあった銭湯、美章園温泉へ通っていた。
美章園温泉は、学生時代の私にとって、毎日のように訪れた思い出深い場所である。
この銭湯は、実は昭和八年に建設された建物で、私が卒業後の平成十二年には国の登録有形文化財に指定された。
かつては、戦前に大阪三大温泉と呼ばれるほどの人気を博していた有名な銭湯である。
当時、生活費を稼ぐためにうどん屋でアルバイトをしていた私はうどん屋のおじいちゃんとよくこの銭湯へ出かけた。きっとサウナを覚えたのもこの銭湯だとおもう。
ここでの時間はただ体を清める場所以上のもので、おじいちゃんとの会話は、人生の教訓に満ちていた。
今はもう存在しない美章園温泉だが、その記憶は私の中で色褪せることはない。
学生時代の瞬間が、この温泉と共にあった。